難所詳細ルートガイド

剱岳 〜カニのタテバイ・カニのヨコバイ〜

難所詳細ルートガイドPDFはこちら

いざ、百名山最難関ルートへ!

(剱岳全体のルートはこちらを参照してください)
剱岳は岩と氷の殿堂といわれる名峰。登山者憧れの山ですが、土の部分はなく全山が岩に覆われています。どこかヨーロッパの高山を想わせるところも人気なのかもしれません。とくに映画の舞台になってから訪れる人が多くなったようです。しかし、難易度は国内の一般登山道では最高ランクに君臨しています。想像する通り、岩場をアップダウンすることになりますが、クサリやハシゴなどの補助具は完璧に整備されています。標高は3000mにわずかに届きませんが、第一級の名峰であることに間違いはありません。
登山口に建つ剣山荘からだと5時間ほどでピストンできますが、できるだけ午後早い時刻には下山するスケジュールを組みましょう。いったん登り始めると逃げ場はありません。その場から撤退することも難しくなるので、天候の悪い日や荒れそうな時は絶対に入山しないことが大切です。

難所詳細ルート作成者

中田真二:山岳ライター

長野県松本市出身。高校、大学と山岳部で山と部室の往復に明け暮れる。出版社勤務の後、山歩家に転身。2021年12月現在、国内外3300座余の山に足跡を残す。山岳ガイドに関する著書多数。

日本アルプスガイドセンター理事

剣山荘からの詳細ガイド

イラスト図は前剱からのコースの概要を簡単に書いたものです。
図で見るようにクサリが多くあります。また、クサリの無い場所でも足を置く場所は狭く、完全にフラットな面に足を置くことはできません。そのために足首などをぶつけてしまうことがありますので、極力ハイカットの登山靴を履くようにしましょう。
さらにトレッキングポールは無用というよりも邪魔なだけです。小屋に置いていくように。以前下山中時に前剱岳辺りからトレッキングポールを使用中に突き損ねて滑落死亡事故もありましたので、絶対に守ってください。
クサリのない場所でも三点支持(確保)の姿勢を要求されます。展望に気を取られ過ぎたり、おしゃべりに夢中にならないよう十分注意しましょう。

まずは剣山荘の脇から登山道に入ります。小さくジグザグを繰り返して登ります。着実に高度を稼いでいることが実感できるはずです。
一服剱で小休止したらハイマツの中を下ります。すぐに武蔵のコルに到着します。ここから岩場を登ります。ペンキマークを頼りに登りましょう。
その後、長いクサリが現れますが、上りなので頼らなくても登ることができます。ここを登れば、前剱の稜線に乗ったことになります。
そして、ここから上りと下りのルートが別になります。

クサリナンバー⑤前剱にかかるクサリです。 左手に軽く持ち、バランスを崩さないようにするためのガイドとして利用します。

前剱の山頂を通過しますが、眼前に圧倒的なスケールで剱岳が迫ってきます。往復で13ヶ所ほどのクサリ場が登場します。気持ちを引き締めて歩きましょう。前剱の先でクサリを使って数m下ります。そして鉄製の小さな橋を渡って大岩の斜面を斜上します。この岩のピークから長いクサリ場を下り、最低部から登り返します。
その先にあるのがカニのタテバイです。垂直の岩壁にクサリが垂らされています。落ち着いて登れば問題はありません。岩場に慣れている人ならクサリに頼らなくても登ることができる箇所もあります。ここをクリアして、わずかに右へ行けば剱岳の山頂です。

剱岳の山頂は岩が堆積し、平坦な個所はほとんどありません。適当な場所で360度の展望を楽しみましょう。盛夏だと登山者が多いのでお互い譲り合うことも必要です。

剱岳山頂。厳しい気象条件を物語るように祠はしっかりと岩に覆われています。

下山は往路をわずかに戻り、剱岳で最も難所と呼べるカニのヨコバイに挑戦します。まず、岩の間に垂らされたクサリを頼りに下ります。カニのヨコバイ取付点で、後ろ向きの姿勢でクサリをしっかり握り、岩の窪みに右足の置く位置を探します。右足が固定されたら、その横に左足を置きます。そして左足を左の大岩に刻まれたコースに乗せます。クサリをしっかり持ち、右足を同じように引き寄せればヨコバイに乗ったことになります。数mそのまま横歩きし、ハシゴを下ります。さらにクサリ場が続きますが、気持ちを緩めなければ問題はないはずです。(更に詳しくはこの下で)

剱岳山頂。岩に覆われているので、歩き回らず休憩しましょう。展望は申し分ありません。

その後も下り専用の道を辿って行きますが、ヨコバイのように目視できない箇所はないのでスムーズに歩くことができるはずです。前剱手前の長いクサリの上部にでます。剱岳の雄姿を脳裏に焼き付けたら往路を剣山荘まで下りましょう。

カニのタテバイ詳細ルートガイド

カニのタテバイは多少、岩登りに慣れている人なら苦労することなくクリアできるはずです。そうした人ならクサリを使わなくても登れる箇所が分かるはずですが、無理はしないこと。また、クサリを使う場合、先行者との距離を詰めないように注意しましょう。
先行者がクサリを引っ張たりすると、その反動でクサリが振られて危険だからです。ここに張られているクサリはしっかりしているので、それほど影響を受けないはずですが、もしものことを考えて少し距離を保ちましょう。また、怖いからといってクサリにしがみつくのも危険です。登ることができなくなります。あくまでも歩くための補助具として利用しましょう。

カニのタテバイ。ほぼ垂直に登りますが、クサリに頼らなくてもクリアできる箇所があります。いずれにしても三点支持で登ることをこころがけましょう。
カニのタテバイ上部。ここを登り終われば剱岳山頂はもうすぐです。クサリを頼らずに登ることができるエリアでもあります。

カニのヨコバイ詳細ルートガイド

カニのヨコバイでは、取付点までは岩と岩の間を下ることになります。取付点までは混むことが多いので焦らずに。ヨコバイ取付点の岩に下向きに赤い矢印が描かれています。その岩の横に上から見て右向きの赤い矢印が描かれています。

ここで後ろ向きになり、クサリをしっかり持って右足を下向きの矢印が示す方向へ下ろすと岩の窪みが見つかります。そこに右足を置いたら、その脇に左足を下ろし、右足をそこに引き付けて左の岩棚に移ります。ここがヨコバイです。その後はゆっくりクサリを頼りに左に進みます。グループの場合は上級者がヨコバイに先に取付
き、後続者ひとりずつに右足の置く位置を指示して、ヨコバイに移る時に自分の体の前を通過させるようにすれば安全に通過できるはずです。また、上級者がロープを使って上部からヨコバイに移る人を確保する方法もあります。さらに全員がハーネスを装着して、クサリにカラピナを着けて自ら体を確保する方法もありますが、使い慣れていない人だと多少時間がかかるかもしれません。

剣山荘からトレッキングポールを使って登り、一服剱にそのトレッキングポールまとめて置いていったグループを目撃したことがあります。剱の本格的な岩登りの前に置いていったことは流石だと思いますが、以前に一服剱からの下りでポールを突き損ねて斜面を滑落した人を目撃したことがあります。グループで登山して、下山時にグループがばらけてしまい焦っていたそうですが、残念ながらその方は亡くなられてしまいました。
剣山荘を出発する時にトレッキングポールは置いていくようにしましょう。それと、グループの場合は一番体力のない人に歩調を合わせて、誰一人遅れることのないようにすることが肝心です。

カニのヨコバイ取付点。慎重にクリアしましょう。
カニのヨコバイ取付点手前の下りです。このコースで最も緊張する場所ですが、クサリも足下もしっかりしています。怖い人にはハーネスの装着をおすすめします。
カニのヨコバイ。クサリをしっかり持って摺り足のようにして左へ進みます。ここをクリアすれば、難所は終わりますが、剣山荘に着くまで気持ちを緩めないように。

剣山荘〜剱岳 高低図

剱岳別山尾根ルートへ戻る

難所詳細ルートガイドPDFはこちら