難所詳細ルートガイド

不帰の嶮(かえらずのけん)

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(白馬岳からの全体の登山ルートはこちらを参照してください)「不帰の嶮(かえらずのけん)」。登山者で無くとも、初めて聞いたら忘れられないなんとも不吉な名前を持つこの峰々、その昔、身の程知らずが天狗に近づこうとしてここへ向かい、帰ってこなかったことがその名の由来だそうです。不帰の嶮は、北にある「天狗の大下り」取付き点2,703mから、南にある日本三百名山「唐松岳」2,695mの間にある浸食によって形成された峰々で、北からⅠ峰、Ⅱ峰北峰、Ⅱ峰南峰、Ⅲ峰(A/B/C)が連なる、稜線の山々の総称です。この連なりの最鞍部は日本3大キレットの一つ「不帰キレット」と呼ばれ、標高は2,411mとなっています。わずかな距離の中で300mの高低を繰り返す険しい岩峰として、一般登山者にとっては挑むべき難所として常に目標の一つとされてきました。
中でも難関なのはⅠ峰からⅡ峰北峰間のルートで、登山道は鎖場の連続となっていて、踏破するにはそれなりの技術と経験が必要となってきます。
(注意事項)
ルートはバリエーションルートの一つとして登山地図上は破線ルートとなり一般的な登山道ではありません。ただしルートは基本的に整備されクサリ場などもしっかりしているので、三点確保(下りの場合背面下降)を忘れず常に安全姿勢を心がけながら進めば、経験豊富な方なら行けるはずです。わかりにくい場所も岩にペイントされた目印、〇や×そして→をしっかり見極めて進んでください。間違えたと思ったらわかるところまで戻りましょう。
シーズンピークではクサリ場や岩場ですれ違うことが多くなりますが、一般登山道とは異なりますので、登り優先にこだわること無く、譲り合いながらも柔軟に判断し声がけ確認しながら進んでください。また待機は必ず山側へ体を避けてください。人が多いと落石の危険が高まります。ヘルメットの着用は絶対ですが、もし不覚にも自分が落石をおこした時はできるだけ大きな声で「ラク!」と叫びましょう。
そして天気の悪い予報が出ている時は決して無理をしない判断が必要です。基本的に天狗の大下りから不帰Ⅱ峰南峰間は撤退が難しくなりますので、難しいと思ったら躊躇無く戻ってください。また夏場は午後の雷を避けるためにも小屋の間をできるだけ午前中に通過するようにしてください。北から南のルート、すなわち天狗の大下りから唐松岳へのルートが、登り中心で比較的取り組みやすいと言われていますが、ここでは核心部のルート解説ガイドを中心に、南から北へ進むルートをご紹介します。どちらからも難所は同じですので参考にしてください。

詳細ルート作成者

中田真二:山岳ライター

長野県松本市出身。高校、大学と山岳部で山と部室の往復に明け暮れる。出版社勤務の後、山歩家に転身。2021年12月現在、国内外3300座余の山に足跡を残す。山岳ガイドに関する著書多数。

日本アルプスガイドセンター理事

★唐松岳山頂から不帰の嶮Ⅱ峰北峰の難所ガイド

唐松岳頂上山荘前のテラスから優美な山容を見せる唐松岳は標高2,695mの日本二百名山です。八方池山荘からわずか4時間ほど歩くだけで後立山連峰の稜線に立ち、北アルプス絶景を味わうことができるアルプス入門ルートと言えます。そしてこの穏やかな山容の向こう側が不帰の嶮です。


唐松岳山頂から剱岳モルゲンロートを見て出発です。

不帰の嶮のさりげなさ過ぎる案内板、ここからは人が極端に少なくなります。

少し北に歩くと右手に日本で7番目に認定された歴とした氷河「唐松沢氷河」が見られます。
はるかに天狗の頭を遠望して唐松岳からしばらく下りが続きます。一旦下ってしまうと緩やかな稜線が続き、不帰の嶮Ⅲ峰に続きます。不帰の嶮Ⅲ峰はA/B/Cの三つの小ピークからなりますが、甲斐駒ヶ岳や瑞籬山を彷彿とさせる巨石が目印で、ピークの黒部側をトラバースして進みます。ルートは石に描かれた〇や×そして→などを見落とさないように慎重に進みます。
不帰の嶮Ⅲ峰直下をトラバースして進みます。この辺りは本当にハイキング気分。Ⅲ峰を過ぎて大きな高低差も無く進むとⅡ峰南峰の緩やかな登りにかかります。唐松岳からおよそ4-50分で不帰の嶮Ⅱ峰南峰に着きます。

Ⅱ峰南峰は平坦なピークです。

遠くに八方池。今日は向こうからもこちらの景色が見たくなるような天気です。

八方尾根上部を人が歩く姿を見る事ができます。

Ⅱ峰南峰天狗の頭が迫ります。

ここからは痩せ尾根をⅡ峰北峰へ向けて進みます。

Ⅱ峰南峰のピークからは、昨日歩いた八方池から唐松岳に至る稜線と唐松岳山頂の人影がくっきりと見えます。この天気だと八方池からの景観は申し分ないでしょう。一方北に目を転じると天狗の頭と手前右にⅡ峰北峰が目に入ってきます。Ⅱ峰は南北の双耳峰となっていて、稜線のつり尾根の上を慎重に歩いて行きます。
最後は岩場を巻いて10分程度でⅡ峰北峰ピークにたどり着きます。さあいよいよ核心部です。ここから先は必ずヘルメットを着用してください。

痩せた尾根を進みます。南峰から北峰までは比較的すぐです。
Ⅱ峰北峰です。ここからは簡単には引き返しができません。天気が崩れそうな予報の時は迷わず引き返しましょう。

★不帰の嶮 Ⅱ峰北峰からの最難所

不帰の嶮Ⅱ峰北峰から先はいよいよ核心部に入ります。
いきなり、クサリとハシゴの連続で高度を下げていきます。
核心部前半の鎖場が続きます。
少し斜行するクサリ場を下がって進むと、次は岩場を巻くようにクサリ場が続いています。
反対側から来る人がいる場合は、声を掛け合って待機場所を定めて降りていきます。急な下りでは背面下降で降りていきます。その先はバンドと呼ばれる岩棚をクサリを使って進みます。しばらくトラバースをして進むとこの辺りから岩場の下りが
急になってきます。ハシゴを使ってバランスを保ちながら降りていきます。
しっかり3点確保しながら進みましょう。岩場を降りきったところで一息つき、緊張をほぐします。水分も補給しておきましょう。目の前にⅡ峰の岩壁がそそり立っています。
山の側面をしばらくトラバースすると不帰の嶮最難所となります。
ここからクサリ場が連続します。ルートは一つなので登りと下りで譲り合い声をかけながら進みます。
斜めになった岩場のトラバースルート。クサリを頼りに進みます。
バンドと言われる岩場の棚をトラバースしていきます。岩にクサリがかかっています。
岩場のハシゴを降りていきます。
見上げるとⅡ峰の岩峰がそびえます。
鞍部で少し休憩しましょう。

不帰の嶮最大の難所は、短いながらも高度感を感じるため取り扱いが難しいクサリから始まります。

取付のクサリから山の北側に抜けると、鞍部そして谷底まで視野に入ってきますが、大事なことは目の前のクサリと岩、足の運びに集中すること。
声をかけ、自分が降りていくことを伝え、背面姿勢でクサリを降り、直下にあるハシゴにとりつきます。ここがアングルの橋となります。

橋を渡りここからは山壁伝いにクサリを確保しながらかなりの急斜面をやや斜行しながら降りていきます。折り返し点で垂直にクサリ場を降り、今度は右手に山をいだきながら同じようにクサリを使って斜行して降りていきます。

更に折り返しはまた垂直のクサリ、それを降りきるとまた反対に斜行して降りていきます。斜面では常に対向者も確認ができるはずですので、それぞれどちらが先行するかを声かけしながら進んでください。最後のクサリ場を降りると、Ⅱ峰取付点に到着です。お疲れ様!

途中少しの間があるものの、この斜面のルートには、ほぼクサリが付けられていることがわかります。決してクサリに頼り切ること無く、かと言って見栄を張って使わないで滑落しないよう、有効に活用して上り下りをしてください。

基本となる3点確保(下りは背面下降スタイル)を忘れなければ挑戦はきっと上手く行くはずです。

アングルの橋の直上にあるクサリ場。ここから先は更に集中して下りに入ります。
ここが不帰の嶮の名所、アングルブリッジ。順番に渡ります。
Ⅰ峰から見たアングルの橋直下の様子。
橋を越えると大岩壁の急な下り坂ですが、足場はしっかりしていますので落ち着いて下りましょう。やや斜めにおおきくジグザグに下っていきます。
ジグザグの折り返し点には垂直のクサリも待ち構えています。
登りの人はここからが核心部。登る目印をしっかり確認しながら登るようにしてください。下りの人はもう少しでⅡ峰北方の難所クリアです。

★不帰の嶮Ⅰ峰〜天狗山荘〜白馬鑓温泉ガイド

不帰の嶮核心部から天狗山荘へ向かっていきます。
不帰の嶮Ⅰ峰はそれほど難度は高くはありません。そして最鞍部、不帰のキレットに着きます。ここから天狗の大下り、逆ルートなので大登りと言う事になりますが、標高差300メートルを一気に登っていきます。後半の鎖場は距離が長く上にいる人は落石など注意して進みます。
1時間足らず辛抱して登ると天狗の大下り取付点に出ます。

Ⅱ峰北峰取付で一息ついたら登り返しです。Ⅰ峰はピークをトラバースして進みます。振り返ってⅡ峰を見ると改めて無事降りて来られて良かった、そんな気持ちにもなります。
天狗の大下りはルート上部に大きな岩壁があり決して気が抜けません。特に下りとなる白馬側からは最初の難関です。しっかり背面姿勢で下りましょう。ルート標識をたどって慎重に進みます。
最も長いクサリ場は20mを超える長さとなります。登りと下り同じクサリを使いますのでここも声をかけ合いながら進みます。下の方がいる場合は落石に注意し、もし落としてしまったら躊躇なく“ラク!!!”と叫びましょう。
天狗の大下り取り付からやや下った場所。ここから見る不帰の嶮は不気味で美しい。山の名前の由来ともなった天狗に会いに行った人の気持ちを察します。
天狗の大下り取付です。
白馬連峰へ続く美しい稜線。

天狗の大下り取付からは
うって変わって気持ちの良い稜線となります。表銀座縦走を歩いた人ならどこか似た雰囲気を漂わせる、ここまでの苦労に対するご褒美のような山歩きを楽しむことができます。

天狗の頭。
天狗の頭から見た白馬鑓ヶ岳の巨大で優美な山塊。

そしてここからは白馬鑓温泉に向かって下っていきます。
唐松岳頂上山荘からおおよそ9時間。お疲れ様です。

天狗の頭を越えいよいよ白馬三山が近づいてきます。約1時間20分ほど歩くと天狗山荘に到着します。

唐松岳から半日かけて天狗山荘へ着きました。白馬側からはここが不帰の嶮のスタート地点となります。行かれる方はここに前泊することをお勧めします。
白馬鑓が岳手前の分岐を白馬鑓温泉方面へ。
白馬鑓温泉手前はクサリ場が続く厳しい登山道。特に稜線からの下りは気をつけて降りていきます。また登山ルートを維持されている白馬鑓温泉小屋の方々に感謝をせずにはいられません。
ようやく白馬鑓温泉に到着します。標高は2,026m。八ヶ岳の本沢温泉、立山室堂の雷鳥荘などと並び、2000mを越える日本有数の高所温泉です。コロナ禍を乗り越えて2022年から営業が再開されました。
登山者なら一度は入ってみたい白馬鑓温泉。登山者しか味わえない至福の時間を味わう事ができます。また晩ご飯は最高です。メニューはお楽しみに。

不帰の嶮 断面図

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