【CONTENTS】乗鞍火山の形成

北アルプスには活火山を含む乗鞍火山列があります。これらの火山は山脈の南北にのびる稜線上に位置し、火山の土台となる基盤が元々高いところにあることから、上げ底火山と称されることがあります。御嶽火山や乗鞍火山のように巨大な火山体も、すでに高くなっていた土台の基盤岩が中に隠れているわけです。乗鞍火山の最高地点は剣ヶ峰(3026m)ですが、基盤の露出は標高2400m(湯川流域)に達しています。なぜ標高の高い場所に火山ができるのでしょう? マグマ上昇の場にある山脈は、低密度のマグマによる浮力を受け、さらに隆起を引き起こす逆断層発生の場になるので高くなると考えられます。

魔王岳からの亀ヶ池と畳平及び剣ヶ峰。亀ヶ池は恵比須火山体の火口である。恵比須火口は約2000年前の噴火の際に形成されたとされ、乗鞍火山で最も新しい火口であるらしい。


北アルプスでは数少ない独立峰乗鞍岳。独立峰といっても23のピークが南北に連なる火山体である。火山活動は古期(120 ~ 90万年前)と新期(32万年前以降)に区分され、間には長い休止期があった。

善五郎の滝:火山地形ならではの多彩な自然を見せつける乗鞍岳。周囲には無数の滝が麓へ雪解け水を運んでいる。滝の多くは、乗鞍火山の溶岩流の末端や側面付近に形成されている。

乗鞍火山の火山活動史と火山体区分

乗鞍火山は、新旧二時期に大きく区分ができます。古期乗鞍火山は南西部に広く分布する千町火山体で、128 ~ 125万年前と92 ~ 86万年前の二時期にさらに区分できます。新期乗鞍火山は32万年前以降の火山活動でできた火山体で、烏帽子火山体、四ツ岳火山体、恵比須火山体、権現池・高天原火山体に区分できます〈図2〉。新旧の活動期の間に50万年以上の休止期があり、一連の火山活動ではなく「古期乗鞍火山」と「新期乗鞍火山」の別の火山とみなされています。新旧の乗鞍火山は活動時期が異なりますが、噴出物は溶岩が主体で、火砕流堆積物や火山灰などの火砕物が少ないという共通点があり、これは同じ火山列に属す御嶽火山とは異なる特徴です。また噴出物は主に安山岩質でデイサイト質岩を伴う点や、噴出中心が新旧ともに現在の南北の脊梁部に連なる点も共通した点です。南北に5kmほど連なる噴出中心から、溶岩は東西や南に流下しており、中でも乗鞍高原に流下した番所溶岩は延長15kmに達する最長のものです。最も若い溶岩は、約9000年前に権現池火口から西に流下した岩井谷溶岩で、溶岩堤防などの地形がよく残っています。また恵比須火口からは約2000年前に火山灰が噴出したとされ、乗鞍火山は活火山に認定されています。