さとテラス三岳/やまテラス王滝

御嶽山を知る二つの新たなビジターセンター

2014年9月27日、日本百名山の一座、霊峰御嶽山が水蒸気爆発によって噴火、死者・行方不明者合わせて63名という、戦後最悪の山岳遭難が起こりました。SNSなどによってその模様はリアルに発信され、私たちの脳裏にも刻み込まれました。戦前の大量遭難となった八甲田山 死の行軍などと違い、山が好きで登っていた人達が巻き込まれてしまった悲しい事態に、山を愛する登山者としては忘れてはならない日となったはずです。

そして事故から8年経った2022年8月末、御嶽山へのアプローチ途上に、新たに二つのビジターセンター「さとテラス三岳」と「やまテラス王滝」がそれぞれオープンしました。さとテラス三岳は御嶽山の黒沢・王滝それぞれの登山口手前、国道19号からさほど遠くない道の駅三岳の横に、そしてやまテラス王滝は田の原登山口すぐ横に建てられています。二ヶ所はそれぞれ多少の役割を変えながら、2014年の噴火遭難事故の爪痕や教訓を知ることができ、同時にどちらへ入っても御嶽山周辺の魅力が伝わるビジターセンターとして、火山情報や登山情報、あるいは地域山岳観光の情報収集に役立つ場所となっています。改めてこの木曽地域における御嶽山の存在の大きさを感じます。

御嶽山の噴火遭難事故は決して風化させてはならない、遺族や地域の想いが込められた、それぞれのビジターセンターへ立ち寄ることは、私たち山を愛するものにとっては、御嶽の山頂へ向かう第一歩:登山口と言えるかもしれません。山への道は急がず、これらのビジターセンターに立ち寄ることで、御嶽山への登り方も変わることになるでしょう。

 

 

噴火災害の遺構:御嶽神社奥社(山頂部)へ登る手すりをはじめ、噴火のすさまじさを伝える展示物が衝撃的です。もし私がそこにいたら、と胸を締め付けます。

 

国道19号線から黒沢・王滝方面へ入り、県道を10分ほど進むと左手に「道の駅三岳」があります(標識有)。その道の駅と併設して清々しい落ち着いた木造の建物が「さとテラス三岳」です。ちなみに三岳とは木曽福島町合併以前の村名とのことですが、実は御嶽山、木曽駒ヶ岳に加え、乗鞍岳の三つを指すのだそうです。乗鞍がここに入るのは少し意外でした。

施設はそれほど広いものではありませんが、御嶽山を中心としたこの木曽エリアの様々な歴史や文化を垣間見ることができます。メイン展示は映像とプロジェクションマッピングによる御嶽山の成り立ちを知るコーナー、そして2014年噴火災害の記録を伝えるコーナーですが、施設の中には名古屋大学の御嶽山火山研究施設もあり、火山についてより深く知る事ができる、学習コーナーや、8年前の噴火災害展示なども含めて、「火山 御嶽山」を知る場所となっています。

噴火災害は地域にとっても深く大きな傷としてその爪痕を残しました。ただそれでも御嶽山は変わらずそこにあります。どんなことがあろうと木曽の方々は御嶽と共に生きる、そんな力強さと想いが詰まった場所、さとテラス三岳はそんな事を感じるビジターセンターと言えます。

さとテラス三岳入り口
御嶽年表が分かり易く描かれています。
木曽と言えばヒノキ、伊勢神宮遷宮を始め歴史ある木造建築の材料となったのをはじめ、今でも木曽の重要な産業です。
映像とプロジェクションマッピングで御嶽の歴史が分かります。
江戸時代から続く御嶽信仰、今でも多くの信者が登拝に訪れます。
他にも多くの噴火の際の生々しい遺構が展示されています。
噴火の際のいろいろな関係者の方による証言が見られます。
噴火当時に山頂付近で撮られたいくつかの写真が展示されています。起こった事実とそこにいた人の反応のギャップに複雑な想いがこみ上げます。
写真に向かって「早く逃げて!」と叫びたくなりました。
名古屋大学の火山研究施設が併設され、ビジターセンターでは火山を学ぶ講習会も開催されています。

名古屋大学の研究協力員
火山マイスター:竹脇 聡さん

噴火から8年目にできたこのビジターセンターについて「少し(こういう場所ができることが)遅すぎたかもしれない、しかし災害を風化をさせることなく、次世代に向けて安全登山を啓発する地域の拠点にしたいと思う、私たちはこれからも火山と向き合って生きていきます。」と力強く語っていただきました。

住所 〒397-0101
長野県木曽郡木曽町三岳10491-12
営業期間 9:00 ~ 16:00
電話番号 0264-24-0197
休館日 年末年始

 

 

王滝未来プロジェクト:御嶽山の懐(ふところ)に住む、地域の方々の笑顔に惹かれます。

 

山のビジターセンター「やまテラス王滝」は田の原登山口の横にあり、御嶽登山に来たら気軽に立ち寄ることができます。2023年夏から御嶽最高峰である剣ヶ峰に直登できるようになった王滝口ルートですが、2014年の噴火の際に犠牲となったり、行方不明となった方の多くがこのルート上にある八丁ダルミで被害に遭われたようです。登山者の方にはまずこちらに立ち寄られると身も引き締まって登ることができるはずです。

やまテラス王滝は外観が岩で覆われていて、正にシェルターの様相です。メインとなる展示映像とプロジェクションマッピングは、さとテラスとは微妙に異なる他、似たような展示がされながらも全体の印象としては火山であることだけでは無い、この巨大な山塊御嶽山の幅広いの魅力を知ることができる場所になっている印象を持ちます。

もちろん災害の痕跡展示もさとテラス同様に目を奪われるものがありますし、登山者を念頭にした教訓も心に残りますが、一方で最後に展示された王滝未来プロジェクトというボードが印象的でした。ビジターセンターでありながらも地域へ向けた応援歌にとても共感することができました。

これからも地域の方々は山と関わりを続けます。一方で登山者たちは毎年のように山に登り続けることでしょう。もちろん災害を忘れない事も大事ですが、私たちも地域の方々も起こったことに留まること無く今日も前を向いて山を登っていく、歩いて行く、そんな気持ちが伝わってくるような企画展示でした。

やまテラスの入り口
映像・プロジェクションマッピングの展示。
さとテラスのモノとは少し違う内容になっています。
御嶽山の自然がよく分かる展示となっています。
中でも日本アルプスの代表野鳥「ライチョウ」も御嶽山の顔なんですね。
山小屋の紹介パネル
信仰登山の方々の宿坊として整備されてきた山小屋
噴火の際は避難場所としても機能しました。
噴火の際のドキュメント。山が近いだけにリアルに感じます。
遺族の方から寄託された遺品。建物だけでは無くこんな小さなモノまで破壊されました。
山岳遭難史に名を刻んだ御嶽山。救助救出も歴史的な大事業となりました。
火山と共に生きるための様々な対策が講じられています。
噴火に近かった王滝口頂上山荘の看板。50人以上の方が避難して助かったそうです。
住所 〒397-0201
長野県木曽郡大滝村田の原3162
営業期間 7:00 ~ 16:00
電話番号 070-3996-6222
休館日 10月下旬〜6月上旬