高山の小動物は文字通り自然の置き忘れた記念物とも言 えるし、また大地の残した不遇の孤児とも言える。(中 略)いったい物の美しさはその背景に負うところが大き いもので、一面高い山の雰囲気が一段とその美しさを引 き立てていることは否めない。(中略)しかしこうして 山の小動物が美しく繰り広げる絵巻物も、実はその陰に は言いようのない忍苦に満ち、神秘に閉ざされた多くの 営みが秘められていることを知らねばならぬ。
高山蝶をたずねて1 1 9 5 5 年『山と渓谷』8 月号 山と渓谷社」
山岳写真家にして、昆虫の生態研究家。北ア ルプス常念岳とその麓安曇野を拠点として、 高山蝶やアシナガバチなどの生態研究で大き な成果を残した、日本のファーブルとも呼ば れる存在。その眼差しは高山蝶をはじめ常に 自然への愛にあふれていた。現在は安曇野市 の田淵行男記念館がその業績をたたえ、次世 代へと受け継いでいる。