大町山岳博物館

北アルプスに抱かれた大町に山岳博物館が誕生したのは昭和26年(1951)11月1日でした。戦後の混乱が続く昭和22年ころ、まれに見るこの山岳環境と独自の地方文化を見つめ直し、その発展の拠点を求める青年たちが立ち上がりました。その熱意が地域住民の積極的な支援を得て「岳(たけ)のまち・大町」にふさわしい、日本で初めて「山岳」をテーマとする博物館を生んだのです。
「山博(さんぱく)」の愛称で市民に親しまれてきた当館は、北アルプスを中心とする自然や登山の歴史について展示するほか、「生きた学習・研究の場」として動植物を飼育・栽培する付属園を併設しています。 大町市は「山岳文化都市宣言」のまちです。山博はその中心施設として、北アルプスなど山々の貴重な資料を収集保管・調査研究しており、それをもとにした展示や催しなど、楽しく興味深く学ぶことができる教育普及活動を続けています。

博物館名 市立大町山岳博物館
住所 長野県大町市大町8056-1
設立 昭和26年(1951年)11月1日・博物館登録:昭和27年(1952年)8月20日
区分 総合博物館

見どころ学びどころ

1.展望ラウンジ(3F)

ここからは北アルプス後立山連峰の展望をパノラマでご覧いただけます。ぜひソファーに腰かけてくつろぎながら、ゆったりと展望をお楽しみください。ここでは大町市や北アルプスの概要などを知っていただけます。ご自身と“山”とのつながりを感じてください。

① 北アルプスの展望


飛騨山脈を中心とした北アルプスは、中央アルプス(木曽山脈)、南アルプス(赤石山脈)とともに国内を代表する山岳地帯です。ここでは、眼の前に広がる北アルプス、後立山連峰の雄大なパノラマ風景を、ゆったりとお楽しみください。

② 大町のプロフィール


北アルプスの豊かな恵みに育まれた市内には、黒部ダムや立山黒部アルペンルートをはじめ、高瀬渓谷や仁科三湖、スキー場やキャンプ場、文化財や博物館があり、豊富な温泉にも恵まれて、四季を通じた観光が楽しめます。ここでは、フィールドマップなどで山岳文化都市大町市のプロフィールについてご紹介します。

③ 北アルプス後立山連峰の山々・雪形の伝承・山の伝説


北アルプスは長野・新潟・富山・岐阜の四県にまたがり、奥穂高岳(3,190m)を筆頭に標高2,500mを超える高山を多く連ねて本州の中央部に位置する山脈で、中央アルプス・南アルプスとともに日本の屋根ともいえる日本アルプスを形成しています。
ここでは北アルプス北部の後立山連峰を中心に、大町市内に位置する標高2,400m以上の山岳38座のうち、30座の山岳の概要をご紹介するほか、黒い山肌と白い山岳とかかわり深い雪とによって形作られる残雪模様の雪形や大町市周辺に伝わる民話についてご紹介します。

2.山と生きもの(2F)

大町市の市街地から高山帯に至るまでの、多様な生物を紹介しています。今にも動き出しそうな、リアルな剥製をぜひご覧ください。たくさんのライチョウの剥製を収蔵している当館ならではの、ライチョウコーナーも見どころです。

① ニホンカモシカ「岳子」の剥製


このコーナーに入ると、カモシカの「岳子」の剥製が迎えてくれます。山岳博物館でのカモシカの飼育は、「岳子(たけこ)」から始まりました。1956(昭和31)年、南安曇郡稲核村(現松本市)で幼獣の時に保護された後、当館で21年余りにわたって飼育され、大町市民のアイドル的存在として親しまれました。1961(昭和36)年には、来館された皇太子殿下(現上皇陛下)から、エサを与えていただきました。

② 野生の姿を再現した剥製


生きている時の姿を再現した剥製を数多く展示しています。毛づくろいをしているニホンザル、獲物に襲い掛かるフクロウ、角研ぎをするニホンカモシカなど、リアルな野生の動きを身近で見ることができます。

③ ライチョウコーナー


国内でも貴重なニホンライチョウの剥製を、当館では数多く所蔵しています。その剥製を用いて、雛から大人になるまでの1年を通じたライチョウの生活を、剥製を使って再現しています。

④ ライチョウ飼育の歴史


山岳博物館は、昭和38年より全国に先駆けてライチョウの飼育を開始しました。60年に渡る飼育の中では、繁殖に成功する一方で感染症等の多くの困難がありました。昭和の時代からの貴重な写真とともに、山岳博物館とライチョウの歩みを紹介しています。

3.山の成り立ち(2F)

地球の誕生から現在までの気の遠くなるような時間の流れを、化石や岩石に触れて実感してください。この地域の地質の特徴であるフォッサマグナの堆積物、北アルプスの成り立ちについて紹介しています。映像もご覧いただけます。

① 水の惑星 地球46億年の生い立ち


地球誕生から46億年。各時代を彩る生き物たちの痕跡である「化石」は、私たちにさまざまな情報を提供してくれます。 ここでは、各時代の生き物たちのようすを簡単に紹介し、水の惑星の生い立ちについて理解を深めていただきます。

② 日本列島の生い立ち


プレートテクトニクスの考えによれば、日本列島は太平洋プレートやユーラシアプレートなどのプレート同士の衝突の過程で激しい地殻変動を繰り返しながら今のような姿に成長してきたと考えられています。ここでは、日本列島の成り立ちと糸魚川‐静岡構造線と柏崎‐千葉構造線に挟まれたフォッサマグナ、北アルプスの成り立ちについて紹介します。

4.山と人(1F)

人が北アルプスの山々と、先史時代以降、どのようなかかわりをもって暮らして来たのかをさまざまな資料や大型映像でご紹介しています。山麓に住む人々は、狩猟・漁労や森林資源などの採集によって、山からの恩恵を受けてきました。そうした山村での暮らしを伝える民具などをご覧いただけます。日本の近代登山の幕開けから、ヒマラヤへの道までを通史的にとらえています。山小屋内では、大沢小屋の変遷や山での生活を映像でご覧ください。

① 山と人 北アルプスと人とのかかわり


明治以降、近代登山が国内に定着し始めてから現在まで百余年。それは、先史時代から山と人が織り成してきた1万数千年という歴史でみると一瞬です。
ここでは、そうした近代登山史のほか、山麓で連綿と育まれた歴史や民俗を含めた“北アルプスの山岳文化”を知るため、後立山連峰を中心とした「山と人」について探ります。

② 北アルプスと人とのかかわり年代記


登山とは何でしょうか。人はなぜ山に登るのでしょうか。山と人はどのようなかかわりを持ってきたのでしょうか。ここでは、北アルプスと人とのかかわりについて、過去から現在へ向かう時間軸による年代記としてダイジェストにし、各時代の特徴的な事象と今日までの変遷を紹介します。

③ 山岳人列伝〜山岳文化を育んだ大町周辺の人々〜


大町は「山のまち」です。日本の近代登山黎明期の明治末から昭和初期、この時代の近代登山の歴史をふりかえるときに忘れてはならないのが、北アルプスの近代登山隆盛を舞台裏で支えた地元地域の人びとです。ここでは、「山のまち」大町の周辺で山岳文化を育んだ各分野の人びとにスポットライトを当てて紹介します。

④ 上條嘉門次関連資料


上高地・嘉門次小屋の女将・上條久枝氏より、上條嘉門次の使用した猟銃並びに、ウォルター・ウェストンが所持し、山案内人として親交を深めていた上條嘉門次への感謝の印として贈られたとされるピッケルなど計8点をご寄贈いただきました。日本登山史の黎明期に使用された貴重な資料を紹介します。

皆さんはご自身が良く登られる山の、山開きがいつかご存じでしょうか?
富士山や乗鞍岳は7月1日と決まっていますが、ここ大町では6月の第1日曜日が山開きで恒例となっていて、正式には「針ノ木岳慎太郎祭」(夏山開き)と呼ばれています。
この名称の冠となっている慎太郎こと百瀬慎太郎さんは、大正時代に活躍した登山家で、当時大町で「對山館」と言う旅館を営んでいた人だと知る人は、相当山に通の方なのでしょう。
でも百瀬さんの名前を聞いたことの無い人でも、この言葉は耳にしたことがあるのではないでしょうか?

山を想えば人恋し
人を想えば山恋し

 

百瀬慎太郎さんは1892年、彼のウォルター・ウェストンも宿泊したと書き残した大町の名旅館、對山館で生まれ、家業を営みながら、1917年大町で日本で最初の山案内人組合を設立、1923年3月、北アルプスの冬季縦断に成功するなど、当時の登山界へ大きな貢献をされました。又山小屋経営としても大沢小屋、針ノ木小屋などを建設し、對山館と合わせて、数多くの登山愛好家の方々を受け入れて来たのをはじめ、歌人としても若山牧水に師事し、数多くの山の短歌を残しています。

ここ大町山岳博物館では、そんな百瀬さんの残した100年前の冬の日本アルプスの映像や数々の貴重な資料を見ることができます。

明治後期の對山館
ウォルター・ウェストンは1893年對山館こと 「山丁旅館」に宿泊している。

登山客と楽しげに談笑する百瀬慎太郎さん。
山を通じて多くの知識人達と交流を重ねたと言われています。

※写真は全て展示品から

5.山と美術(特別展示室)

明治以降の山岳画家らが描いた山岳風景画と、美術品の域まで達した古典的なピッケルをご鑑賞ください。
※企画展の開催時はご覧いただくことができません。

6.付属園(動植物園)

貴重な野生動植物を守って増やしたり、調査研究をしたりしながら、北アルプスの山麓から高山までの生きものを飼育・栽培、展示しています。また、さまざまな理由で野生では生活できない動物を保護し、飼育しています。(入園無料)

① ライチョウ


実際に生きたライチョウをご覧いただけます。現在、環境省で進めている保護増殖事業に参加し、飼育下繁殖の取り組みを行っています。可愛らしい姿や仕草をご覧いただき、少しでもライチョウや高山環境の保全に関心を持っていただけたらと思います。

② ニホンカモシカ


大町市では里山~亜高山帯にかけて生息しているウシ科の生き物です。昭和31年の「岳子」に始まり、現在まで飼育・展示を続けている博物館のシンボル的存在です。傾斜のある放飼場を悠々と歩くたくましい姿をご覧いただけます。

③ コマクサ


付属園では、高山植物や長野県で絶滅の危機に瀕している植物、大北地域で見られる植物などを、研究を目的に育てています。コマクサの見ごろは5月中旬~6月下旬です。山の上での開花は初夏から夏にみられますが、低地では晩春から初夏にかけてみられます。

7.山岳図書資料館

山岳に関する書籍などを収集保管し、資料の散逸や亡失を防ぐとともに、調査や教育普及にご利用いただき、山岳文化の継承と普及の推進を図っています。

館内案内図