日本の紅葉は世界でも指折りの美しさと言われます。そもそも、紅葉する木、すなわち落葉樹が多く分布している国は、世界的に見ると、それほど多くないとされています。 日本列島の大半は、落葉樹が多い温帯気候帯で、さらに樹種が多く、紅葉の彩りも赤、黄色、褐色など様々で、彩り豊かな紅葉を楽しめるとされています。
紅葉のメカニズム
ひと口に紅葉といっても、その色合いは木の種類により、地域により、さまざまに異なった色合いを見せます。紅葉の文字通り、紅くなるものもあれば、黄色くなる黄葉もあります。また、赤のなかでも目の覚めるような真紅もあれば、褐色がかった赤もあり、なかには白くなる変わり種も。
紅葉する木も、黄葉する木も、春〜夏は緑色です。緑の色素は光合成の主役であるクロロフィル。それが秋になり、葉が落ちる前には光合成が行われなくなり、クロロフィルが分解されていきます。 このとき、クロロフィルが赤い色素のアントシアニンに変わったものが紅葉になるとされています。
クロロフィルがなくなり、もともとあった黄色い色素のカロテノイドが目立つようになる、もしくは黄色い色素が作られたものが黄葉とされます。 赤い色素と黄色い色素が同居していると、オレンジがかった紅葉になります。褐色になる褐葉は、フロバフェンと総称される褐色の色素が蓄積したもの、白葉は色素を欠いたものと説明されています。
植物の垂直分布
垂直分布とは、平たくいえば、標高によって異なる生物が見られる現象。とくに植物では顕著で、標高が高くなるにつれて徐々に変わるのではなく、ある高さを境にがらりと変わります。日本列島全体では大きく4つ、低いほうから丘陵帯、山地帯、亜高山帯、高山帯に分けられます。
各植生帯の境目の標準的な高さはイラストのとおり。北へ行くほど境目は低くなり、北海道の礼文島や利尻島などでは、海岸近くまで高山帯が下りています。また、太平洋側より、日本海側の豪雪地のほうが低くなる傾向も見られます。
各植生帯の主な木は、丘陵帯がシイ・カシの仲間、タブノキ、ヤブツバキなどの常緑広葉樹、山地帯はブナ、ミズナラなどの落葉広葉樹、亜高山帯はシラビソ、オオシラビソ、コメツガなどの常緑針葉樹、高山帯はハイマツなど。山地帯が最も彩り豊かなのは、紅葉する落葉広葉樹が多いからなのです。
なお、高山帯の樹木はハイマツのように、低く這い、高木が見られず、森林も形成されないので、亜高山帯と高山帯の境目は森林限界、高木限界などと呼ばれます。
紅葉ミニ図鑑
山地帯から森林限界付近で、鮮やかな紅葉を見せてくれるのがナナカマドやカエデの仲間、黄葉はダケカンバ、カラマツ、ブナなどがあり、カエデは種類により黄葉するものもあります。
解説
ナナカマド(七竈 バラ科)
山で最も紅葉が目立つ木のひとつで、高さ7〜10mになる落葉高木です。同属のタカネナナカマド、ウラジロナナカマドは高山帯にも生え、森林限界付近から上では地に這うことも。生木は燃えにくく、七回、カマドにくべても燃えないことが名前の由来とする俗説があります。
ダケカンバ(岳樺 カバノキ科)
鮮やかに黄葉する木で、亜高山帯に生えます。高さ10〜15mになる落葉高木で、ナナカマド同様、森林限界付近では低木状になります。山地帯に映えるシラカバとよく似ていますが、幹がシラカバほど純白にならず、やや褐色がかっています。
カラマツ(落葉松・唐松 マツ科)
針葉樹はほぼすべて一年を通して緑の常緑樹ですが、カラマツは名前のとおり、落葉、黄葉する唯一の針葉樹です。高さ20〜30mになる高木で、植林された林も多く、山地帯から亜高山帯まで広く見られます。北海道には自生はなく、今ある林はすべて人間が植えたものとされています。
ブナ(山毛欅、ブナ科)
山地帯に生え、高さ30mにもなり、原生林を構成することも多く、みごとに黄葉します。秋になる実は長さ1.5cmほどの卵形で断面が三角形で、茶色い皮は固く、ブナグリとも呼ばれます。
ヤマウルシ(山漆 ウルシ科)
山地帯に多く見られ、高さ3〜8mになる落葉中高木ですが、真紅に紅葉し、ほかの木々よりやや早く色づいて目立ちます。塗料の漆をとる中国産のウルシと同じ仲間で、ウルシほどではありませんが、実などにふれるとかぶれることがあります。